2013年3月2日土曜日

インドネシア:バリ島Ubud  癒しの女神



傷を負ってから気持ちが上がりきらない。
歩くと足が痛むので、部屋でパソコンをいじる。
一日部屋にいるだけだと日記に書くような出来事もないので筆が進まない。
ぼ〜っとあれこれ考える。
ネガティブなことを思い出す。
ブラジルでは裸足でサッカーして足の親指にヒビが入ったし、ドイツでは熱出して寝込んだ。そしてバリではバイクで転んだ。
「アドベンチャーとアクシデントは兄弟みたいなもんだ。」
なんてかっこいいことを言っても、痛くて夜寝られないし、歩くとズキズキするし、体を洗えなくて臭いし、イラついてくる。

ああ!何だこれは!!俺は何をやってるんだ畜生!くそったれ!

惨めになってくる。
「安静」は旅人には拷問だ。
なにくそと立ち上がると痛い。
観念しておとなしくメールを開く。
Wi-Fiが弱い。
待った挙げ句「表示できません。ネットワークを確認してください」
10分放置してリトライしたらつながった。
飛行機で会ったHelenからメールが入っている。
「今日の午後、モダンアートの美術館に行くけど会える?」
気持ちが少し上がる。

メールは2時間前に送られている。
パソコンを広げたままベッドにうつぶせになる。
マクラは自分の洗ってない頭の匂いがする。
しばらくその匂いをかぎながら考えた。

行こう。
立ち上がり、歩き、邪気をぬぐい去ろう!
Helenに返事を返して支度をする。
不潔な体で女性には会えない。
Y時バランスのような体勢で、傷がぬれるのを防ぎながら体を洗う。
この日は晴れていて暑かったけど、グロテスクな傷を見せないように長袖長ズボンで出かけた。
やればやれるもんだ。




待ち合わせはARMAというリゾートに併設された美術館。
伝統芸術からモダンアートまで楽しめる。
エントランスをくぐるとHelenがいた。
この人は立っているだけで優しい人だと分かる。
俺に気づくと足の傷を気遣ってくれた。
俺はもちろん痛いなんて言わない。
「It's painful, but it's Ok, It reminds me alive.  (痛いけど、生きてるの忘れなくてすむよ。)」
虚勢を張る。
彼女は笑った。それが報酬だ。

Helenはライターをしている。
週に数時間書き物をして、収入を得ながら旅をしている。
本拠地はスペイン。
イギリスだと自由を感じられず移住した。
イギリスの空の色が憂鬱にさせるとか。
イギリスで彼女は絵を描いていた。
かなり本気だったらしい。
しかしライターの仕事を始めて段々やらなくなってしまった。
作品を最後まで描ききれないので、描きかけの絵が今もそのままだそうだ。

テクテクとミュージアム内をこれが好きだとか何を感じるとか意見を交わしながら歩いた。
こう話していると、やはりHelenが俺に親しみを持ってくれたのは飛行機の中で見せた絵だと分かる。
美を敬う者は共鳴し合う。
相手に自分の感性を伝えるツールがあるのはいい。
時々それは言葉を越える。
その日はお茶している間に足がどんどん痛くなってきたので正直に言って帰った。
気持ちはよかった。




Helenとはバリ滞在中にもう一度会うことができた。
その時は猿がたくさんいるモンキーフォレストを散歩した。
その時に日本語について話した。
Helenは数年前に半年間くらい友だちに勧められて日本語を勉強したことがある。
でも今では「ありがとう」と「こんにちは」くらいしか覚えていない。
ひらがなとカタカナでいっぱいいっぱいで文法まではとてもついていけなかった。
漢字も習ったけど一つしか印象に残っていない。

その一つの漢字は・・・
姦ー「かしましい」とか「よこしま」と読む。「不倫をする」という意味を持つ。
しかしHelenの中では、
姦ー「女の子が集まってぺちゃくちゃおしゃべりしていて騒がしい」だった。
確かにそういう風にも見える(笑)
淫語の代表みたいな字だと教えると恥ずかしがっていた。
かわりに山や川を教えてあげた。
彼女のお気に入りは「木」で、三つで「森」になるのがしっくりいったようだ。

次の日、彼女がバリから旅立つ日。
最後に会おうと約束していたけど会えなかった。
夕方Helenはフィリピンに飛んだ。
新しい仕事の面接を受ける。
乗り継ぎで何時間も待ったので時間を持て余して写真ブログを立ち上げたとメールが入っていた。
それを見て吹き出した。

「最後に会えなくて本当に残念。またどこかで会いましょう。漢字の"(tree)"を教えてくれてありがとう。」そう書いてある。
よく見ると" "の 間にあるのはカタカナの""だった。

かわいい。
またちょっと元気でた。
Helen, was nice to meet you, Good Luck !


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