アンコールワットから40kmにある、森に眠る遺跡「ベンメリア」がヨーロッパ人の狩人に発見されたのは1990年代。
(カンボジア人はもっと前から存在を知っていたので、これは西洋視点での発見時期。)
そして2001年に観光客に開放された。
この遺跡は楽しい。
自然の浸食によって崩壊が進み、遺跡内にはかつての建造物から崩れ落ちた大きな石がうずたかく積みあがっている。
遺跡というより、瓦礫山といった方が近い。
石の山をよじ上って遺跡内を探検するので、アスレチックみたいだ。
遺跡探検を終えると汗だくになるほど、アドベンチャーを体験できる。
ここには宿で知り合った日本人とグループで行った。
ワゴン車とドライバーをみんなでお金を出し合ってハイヤーしたので、一人数百円で済んだ。
朝早くから集まって、1時間かけて赤土の道をすすむ。
途中、茅葺きの家々が連なる集落を通る。
多分、この辺りは電気もない。
家の中のシンプルな暮らしを想像するのが楽しかった。
遺跡の入り口に立つと、奥に石の山が見える。
バタバタと巨石が倒れていて、巨人が暴れたようだった。
ここは「天空の城ラピュタ」のモデルになったらしい。
たしかにここは「自然と文明」というテーマで哲学するのにはうってつけの場所だ。
奥に行くと、植物と遺跡が絡まりあう異様な光景が広がる。
石を踏んづけながらさらに奥にいく。
玄関をくぐり、遺跡の中に入ろうとした時、岩の上でおばちゃんがこっちよと手招きをしてきた。
周りには彼女と同じジャケットを来た人が何人もいる。
多分、市のガイドか何かなのだろう。
でも後で多額のチップを要求される可能性があるので注意は必要だ。
着いていくかどうかグループで話し合った。
人数がいたので、どうにかなるさ、と彼女についていくことにした。
熟練の眼で、ここは危ないとか、ここは大丈夫だとか見分けていく。
彼女に案内されるまま、塀の上をつたい、ガジュマロの枝でブランコをし、高さ15mの石山に登った。
遺跡を遊び場にしている地元の子どもが岩と岩の間をジャンプする。
高い所で片足立ちをして、見て見て〜と観光客に自慢している。
こんな贅沢なアスレチック、きっと世界中どこにもない。
おばちゃんに連れられるまま、ベンメリアの遺跡を登ったり降りたりしているうちに、少し開けた場所に出た。
あたりは木や草がなく、砂地だ。
おばちゃんがすっと立ち止まってこちらを振り返り、地面を指差した。
そこは窪んでいる。
「ランマイ・・・」
おばちゃんはそう言った。
最初、何の事だか分からなかった。
俺たちがキョトンとしていると、彼女はズボンの裾をめくった。
その部位は光を反射している。
義足だった。
ランマイとはランド・マインのこと。
地雷。
彼女の足は地雷によって吹き飛ばされていた。
こんな至近距離に、メディアで見た戦争がある。
彼女はニコッと微笑むと、また俺たちのガイドを続けた。
石の山を平気な顔をして登っていく。
この人はとてつもなく強い。
最初に金の心配をした自分が恥ずかしくなった。
戦中600万個埋められた地雷は、撤去が進められた現在でも毎年200人以上の手足をもぎ取り、命をむしり取っている。
カンボジア内戦について知る必要性を感じた。
内戦とはつまり、カンボジア人がカンボジア人を殺すということ。
明日、カンボジアの首都プノンペンに行く。
そこには、ポル・ポト派による虐殺の歴史が生傷のまま残されている。
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