2013年2月15日金曜日

マレーシア:インスピレーションの町マラッカ


マラッカは描きたくなるものがたくさんある。
 町を歩くとインスピレーションが湧いてくる。
 一日のうち4時間くらいは絵を描いている。
 巨大なマングローブ、マラッカ海峡、伝統ある中華街の町並み、人々でにぎわう運河。
曲も書きたいけど、絵が楽しい。要領も得てきた。
自慢じゃないけど、いや自慢だけど、俺が風景を描いているとそこに人だかりができる。一人が立ち止まると、なんだなんだと人が立ち止まる。
「うまいね」とか、ピュゥと口笛を鳴らして通り過ぎていく。
ある人は一緒に写真を撮ってくれと頼んでくる。
嬉しい。人だかりが過ぎたらこっそりニヤつく。



(上のマングローブの絵を描いているときに声をかけてくれた家族。
絵は地元の人とのいいコミュニケーションツールになってる)

旅の時間を全て絵に注ぐのはさすがに惜しい。
積極的にその町を知り、国を探っていきたい。
意識的にスケッチブックを閉じるようにしている。



マラッカは日本とゆかりのある町だ。
一つは前回も触れたように、マレーシアで最初のディーゼル列車の車両。
1965年に日本の大阪から運ばれてきた。
その車両が引退して広場に展示されている。
トゥクトゥクのガイドからそれを聞いた。
定年した日本の車両がマレーシアで活躍したなんてロマンがある。





もう一つはセントポール教会跡。
すでにここは教会としての体を成していない。
屋根もなく、石積みの壁面だけが残っている。
中にはいくつもの墓碑。
誰も埋葬はされていない。
昔のポルトガルやオランダのお偉いさんの大きな石の墓碑だけがいくつも立てかけられている。
見たところ一枚で重さ500キロはありそうだ。
それが30枚くらいある。

この教会がどんな風に日本とゆかりがあるかというと、宣教師フランシスコ・ザビエルがマラッカを訪れたときに泊まっていた場所。
そして亡くなったときに遺体が一時的に埋葬された場所。

ザビエルはマラッカで日本人と接し、布教の必要を感じて1549年に鹿児島に上陸した。
以後2年間で500人以上に洗礼を授ける。
その後中国で布教しようとしたけれど、入国を待っている間に熱病にかかって死んでしまった。
遺体はこの教会に運ばれ、インドに移されるまで9ヶ月間埋葬された。

ザビエルは室町時代の封建社会に「自由」と「人間性」の危機を感じたという。
そして命を徒して日本にやってきた。
彼の中でキリスト教の思想はそれほど確かなものだった。
2年間、ザビエルは日本各地にキリスト教を伝えた。
ザビエルが日本を離れた後も、その教えは鎖国や弾圧を生き延びてきた。
ただ、本当にたくさんの血が流れた。
どうしてキリスト教は弾圧を乗り越えることができたんだろう。
今の俺たちには「自由」や「人間性」はあまりにも当たり前すぎて、当時の人々がどんな思いでこの思想を守ったのかを理解するのは難しい。
でも封建制を強いてきた幕府がこの思想を恐れるのは現代情勢にもスライドできる。
残念なことに、宗教が認められた現代でも「自由」と「人間性」は危ういのだ。
うっかりしていたらいつでも何かに持っていかれてしまう。
気づかないうちにコントロールされている。
フィールドが封建制度から資本主義・物質主義に移り変わっただけだ。

危機が去っていないということは、ザビエルの行動が何も変えられなかったということか。
そんなことはない。
彼らは、イデオロギーなんかで「自由」や「人間性」に蓋はできない、と立派に証明した。




この日は旧正月イブだった。
華僑の町では夜の九時頃から凄まじい爆竹音がしている。
ドラの独特の響きに辺りの空気がたわむ。
左右すきまなく並んだ露天。
ミッドナイトが近づくにつれて人が増えていく。
辺りはひたすら赤い。
提灯がずらっと浮いている。
赤は興奮作用のある色だけど、これは心が静まる不思議な赤。
メインテンプルの門をくぐった。
金と赤で装飾された荘厳な世界が広がる。
人々は煙の出る香を頭の前で振って、大きな線香立てに供える。

(メインテンプルの奥にあるお参りするところ、この他に別のタイプの祭壇があって、
どれも雰囲気がすごい。これが一番パワーがあったので描いた。)


ドッパーン!
花火がうち上がった。
Happy New Year!
華僑に新しい年がやってきた。
爆竹音がさらに激しく鳴る。
けむりが立ちこめる。
火薬のにおいがする。
なぜか腹が減ってきた。
どこか食べるところがないか探す。
腹が減りすぎて何が食べたいのか考えられない。
バーには外国人旅行者が旧正月のにぎわいに酔っている。
屋台では家族連れが大皿を囲んでる。

大勢の人の中にいたら急に寂しくなった。
「旅の仲間が欲しい。」
赤提灯に心を透かされた。
自分と同じ独り者の放浪者にまだ会わない。

何も食いたくなくなった。
部屋に帰ると突っ伏して寝た。
ホームシックなんて早すぎるよな。

0 件のコメント:

コメントを投稿