2013年2月16日土曜日

マレーシア:マラッカ、心をめぐる新しい風






前回も書いたセントポール教会は高台にある。
ここからマラッカの町が見下ろせる。
赤い屋根が途切れた向こうにマラッカ海峡が見える。
16世紀当時、ここはスルタンという王国だった。
王国時代に町は貿易で栄えた。11月から2月にかけて吹く季節風に乗ってアラブやヨーロッパ、アジア各地から貿易船がやってきたのだ。
スルタンの王は海外の貿易商を大切にした。
昔のマレーシアは仏教やヒンズー教が盛んだったけど、
アラブの貿易商が長居しはじめ、彼らが布教したことでイスラム教が広がった。
それが、マレーシアのイスラム教のはじまり。
 (復元されたスルタン宮)

ちょうど、今も2月なので季節風が吹いている。
スルタンは海の向こうからやってくる最新技術をどんな気持ちで待っていたんだろう。
そして当時の人々はイスラムに何を感じたのだろう。
帆船で埋め尽くされた500年前の海を思い浮かべた。





ベイサイドのレストランでマレーシア・チャーハンを食った。
昨日もここで焼きそばを食ったので、スタッフみんなが俺の顔をおぼえてくれていた。
前にのっけた海の絵はここで描いた。
彼らは俺をJapanese Artistとして憶えていてくれた。
この日に描いた絵を見せると、おぉ〜っと唸っていた。
快感。

(トライショーという自転車にかごをつけた乗り物。
これに乗って町をまわり、案内してもらう500円くらい。)


(町並みを描いていたら人々が群がってきて、
トライショーのドライバーに描いてくれと頼まれた。
写真にうまく写らなくて残念)


オーナーが声をかけてくれて、彼らのテーブルに混ぜてもらった。
5人いたみんなムスリムだった。
マレーシアは国教がイスラム教なので、ムスリムが人口の多くを占める。
電車の切符を買っても、道を聞いても何かしらでムスリムと接する。
女性はティジャブという布を頭から首が隠れるように被っている。
色とりどりで、美しい。ファッションと考えていい。
この国のムスリムと話すたびに、どこかこわばっていたイスラム教のイメージがマッサージされたみたいにほぐれていく。
みんな誠実で親切だ。日本の友だちと何も変わらない
日本ではイスラムについて知る機会が乏しい。
入ってくる情報は彼らの生活習慣や観念よりも、圧倒的に爆撃や誘拐のニュースが多い。日差しの強い日にも外すことのない布や、一日に何回も捧げる祈りなど、メディアはイスラムを奇異に見せる。
正直言って、俺もそんな風に見てた一人だ。



思い切ってイスラム教について教えて欲しいとオーナーに頼んでみた。
オーナーは語ってくれた。

「・・・イスラム教が世界であまり良いイメージを持たれてないことは分かってるよ。日本ではどうだか知らないけれど、やっぱりモスクも少ないだろうから、触れる機会がなくて不思議な宗教として見られてるんじゃないかな?あとはどうしてもテロと結びつけて伝えられることが多いだろうなぁ。テロは僕らも許せないよ。・・・イスラム教は一神教だけどね、病を抱える他宗教の隣人を看たり、自分たちを迫害する人々をも受け入れることを教えてるんだよ。彼らと共存することを教わるんだ。イスラムに対していろんなイメージがあると思うけどさ、とくにお祈りのイメージが強いんじゃないかな。一日五回の祈りをするんだけど、最初は朝の六時にするんだよ。うっかり寝坊することもあるさ、人間だもん。そういう時は他の時間に回したり、短縮したりできるんだよ。イスラムって堅っくるしいものじゃないよ。僕はムスリムで幸せだよ。みんなが同じ時間に一つの方角を向いて祈るって素敵じゃない?僕はUniverseを感じる・・・」

彼が話している間、俺が納得したという顔をしてうなずくと、彼は嬉しそうに一緒にいた恋人に目配せをした。
彼女も嬉しそうに微笑みかえした。
彼の恋人はムスリムではない。
イスラム教では結婚したら彼女はムスリムにならなくてはならない。
どうして女性だけティジャブを被らないといけないのかわからない。
どうして婚前のSEXがダメなのかわからない。
俺たちの常識と彼らの常識で違うところはたくさんある。
でも世界はそんなことばかりじゃないか。
大切なのはそこにいる人がそこの常識の中で幸せかどうかだ。
自分が知らなかった世界に触れてみるっていうのはそれ自体が素晴らしい。
窓が開いて、ふぅっと朝の風が舞い込むような清々しい感覚をもたらす。

俺にはどうしてもYoutubeやテレビで見たイスラム教の原理主義者とこのオーナー達が同じ宗教で結びつかなかった。
イスラムであることに幸せな彼らは、イスラムが自分に幸福をもたらしていることを知ってほしがっている。
決して自分たちをイスラムから救い出して欲しいなんて思っちゃいない。
日本のみんなにマレーシアのイスラムを見て欲しいと思った。



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